BCPへの取り組みが進まない理由
中小企業でBCPへの取り組みが進まない理由として
①経済的価値
②社会的価値
が高くないという認識があり、また
③取り組んだことによる平時での売上への副次的な貢献
④社会への貢献度が見えない
ということが挙げられるのではと思います。
実際に①経済的価値が認められるケースを挙げても、インシデントが発生しないとその経済的価値がわからず、また取り組んだとしてもそれまでに投じたコストを回収できるものであるかも判断することが難しい点が考えられる。気象温暖化による地球規模での損害を抑えるために国際的な枠組みとして始まった京都議定書からの流れでも、アメリカは経済的損失を理由に脱退している。
BCPの経済的価値を理解してもらえなければ、義務的な取り組みや何かしらの資格、認可要件取得のための取り組みで終わってしまうのが現状の取り組みレベルと言える。
また②社会的価値についても中小企業がBCPに取り組むことで地域社会に住む人たちの社会生活の安定に寄与することや地域社会全体の人口減少の歯止めになる効果なども知られていない。東日本大震災で津波被害を受けた中心市以外の周辺市町村では自然減での人口減少よりも早く、人口が減っている。その理由は就労場所がないことや学校・病院等がない、買い物ができないなどが挙げられ、まさにこれまで中小企業が支えてきた地域の社会基盤が失われたことにある。中小企業が地域に存在することが社会的価値になる。
しかしながら③のように中小企業では平時における売上の貢献につながる取り組みでなければBCPへの取り組み優先度は低く、余計なコストを払ってまで、ただでさえ人手不足の現状からBCPに取り組む余裕はない。取り組んだことで売上や生産性が上がる可能性のある事例は建設業での入札時の加点があるが、それ以外には効果が少ないと言える。事業継続力強化計画の策定で補助金や税的な効果も認められるが、果たしてどの程度、効果があったのかもわからない。ただ、BCPの取り組みで確実にわかることは経営戦略上の自社の優位性や今後の方向性、業務レベルではオペレーションの見直し、社内人材の育成、課題発見とその解決方法、それらを生かした製品・サービスの企画・開発が挙げられる。こういったベネフィットにまで展開できるような支援が専門家から受けられず、またできる専門家も少ないこともBCPの経済的価値が上がらない理由と言える。
④社会的貢献度についても②で説明したように、災害後の中小企業の存在価値が見落とされていることも重要だが、災害発生時においても企業が持つ資源が地域社会の防災力に貢献されるような仕組みができていないことで、その社会的貢献度が見過ごされている。津波避難タワーとして指定された施設や建物、企業の敷地内にある建物や設備が一時的に地域住民に避難場所等に開放されたという事例もある中で、中小企業がそのような対応を取ることで支払っているコストを地域社会への貢献として認識される機会は非常に少ない。こういった活動に地域社会はもっと目を向けるべきだし、その取り組みに地域社会も加わることが重要であると言える。
これらの取り組みは一時のムーブメントでできることではないし、これまで述べた①経済的価値や②社会的価値が認められるような仕組みに変えなければ、継続的な取り組みにはならない。
本当に残念なことではあるが、BCPへの取り組みが進まない原因は個人や社会全体の意識レベルの低下や近視眼的な経済的価値だけにとらわれている経営者や面倒な仕事が増えるという感覚を持っている担当者に阻まれていると言えるし、国や自治体も取り組みの重要性を謳いながら、効果的な仕組みや専門家の育成ができていないところにもある。もちろん専門家のレベルも穴埋めの記入フォームの策定支援を行って、それで先生面をしている連中に大きな問題と責任がある。
来年はこれらの課題に立ち向かっていきたいと思うが、私個人の力だけでは、残念ながらいつか力尽きてしまうだろうと思う。
何とかしないと東日本大震災の時やコロナの時と同じように多くの人が苦しむことになる。それだけは避けたいと願っています。
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