BCP策定時についつい見落としてしまう項目、論点について28~重要業務の継続に必要な要素・資源と再調達困難度~
静岡県BCPモデルプラン【様式5】重要業務の継続に必要な要素・資源と再調達困難度では業務の流れ(フロー 工程)で使用される経営資源について確認を行い、その経営資源が事業継続に与える影響と再調達の難しさについて検証を行います。ここで検証を行う『事業継続への影響度合い』についてどのように解釈して使用すればよいかを考察しましょう。今回も『再調達困難度』について考察していきたいと思います。
『再調達困難度』
今回も経営資源の『再調達困難度』について考察したいと思います。
前回、『ヒト』『モノ』『カネ』『情報』『外部資源』となる取引先や関係先、地域社会などについて共通する判断基準を考えてみました。
今回は『ヒト』について『事業継続への影響度合い』での結果から『再調達困難度』を考察したいと思います。
前回のブログ記事⑬で『重要業務への影響度合い』で『ヒト』資源について下記のように記述しました。
『ヒト』
人についてですが、前回⑫では例として量産製品の生産について稼働人員の能力をもとに顧客(取引先)の要求事項である生産量をクリアするうえで必要な人員数、それ以外に技術や経験が必要であることを解説しました。このこと以外にも『ヒト』資源に関して影響度合いを判断する項目として
1.知識(個人)…業務に関わる知識
2.適正(個人)…性格的に合っているか
3.身体的条件(個人)…年齢や体力、視覚等の衰えで業務・作業に支障がないか
4.資格・免許(個人)…業務・作業を行う上で法的な(規則等含む)縛りがないか
といったところが少なからず関係してきます。
しかしながら決定的に『影響度合い』として問題になるのは属人的な要素が強く、専業と化している業務・作業になります。中小零細企業の場合、社員個人の能力で行える業務・作業が多く存在しており、そう簡単には代替ができないケースもあります。『10年経験してやっと一人前』という職人技で業務が成り立っていたり、生産している製品がローテク過ぎて若い人材では担い手がいない技術などでは職人や技術者の高齢化が進み、また技術の継承もままならないケースもあります。
こういった視点で見ると『重要業務への影響度合い』が稼働人員数の問題ではないことがわかります。
上記のことから『ヒト』に関して『重要業務への影響度合い』を検証して、この現状から困難度の判断基準を検討することになります。
前回の記事27で判断基準を下記のように設定しました。
①再調達するためにかかる時間(調査、検討、交渉等を含む)
②再調達するためにかかる労力(調査、検討、交渉等を含む)
③再調達するためにかかる予算(調査、検討、交渉等を含む)
④製造・サービスの再現性(代替調達した資源を使用して製造・サービスの再現の実現可能性)
⑤品質の維持(代替調達した資源を使用して製造・サービスの品質を維持するための時間や労力、予算、品質維持に関わるノウハウの蓄積等による実現可能性)
⑥再調達(代替)された資源が法令、規則・ルール等の基準を満たしているか
⑦そもそも再調達(代替)ができない
他にも考慮する点はあると思いますが、これらの項目を判断基準として評価を行うこととします。
ケース1:業務・作業を専属的に行っているマイスター職人の場合
まず代替が困難と思われる専属職人のケースを考えていきましょう。
これまで長年専属で業務・作業を行ってきた方ですので、①知識 ②適正 については問題ないかと思われます。
③身体的条件や④資格・免許については継続的な確認を行い、業務・作業を行う上で支障がないかの判断をすることとなります。
これらの基準をクリアしているとしたうえで『再調達困難度』を検証すると
①時間…同等の意識や適性、身体的条件や資格・免許を有する人材をを確保するために要する時間
②労力…同等の能力を持った人材を確保するために行う作業
③予算…同等の能力を持った人材を確保するために必要な経費(給与等)の検討・準備
④再現性…同様の事業・作業の経験を持っているか
⑤品質…同等の品質を維持できる技術・技能を持ち合わせているか
⑥法令、規則・ルール…資格や免許を有しているか
といった点で判断することになります。
これらの条件を容易に満たすことができるようであれば『重要業務への影響度合い』は少ないと判断されますが、難しいようであればどの項目が難しいのかを特定し、早期に事前対策として人材確保、技術承継(後任の育成・マニュアル整備など)を行うことが必要となります。
ケース2:派遣社員が行っている作業の場合
次に比較的軽作業で汎用性のある作業について考えていきましょう。
派遣社員の条件としては①知識 ②適正 ③身体的条件 ④資格・免許といった基準のハードルは比較的低いことが多いと思われます。ただ、最近の派遣社員でも多くの経験から業務における重要性は増しており、派遣社員が持つ経験や技術がとても大きな戦力として迎えられている事業もあります。この点をケース2で見逃してはいけないポイントとなります。
それでは『再調達困難度』を検証しますと
①時間…派遣会社で対応
②労力…派遣会社で担当
③予算…派遣費用として予算化しやすい
④再現性…派遣会社で対応(事前教育・職歴等から判断)
⑤品質…派遣会社で対応(事前教育・職歴等から判断)
⑥法令、規則・ルール…派遣会社で確認
といったことで派遣会社から選任された人材を採用することで早期に業務・作業の再開が可能となり、『重要業務への影響度合い』は比較的低いと判断されます。
しかし、平時における場合であれば、影響度合いは比較的低いと判断できますが、ここで行っている『重要業務の選定』は仮に設定していることを忘れないようにしなければなりません。あくまでも平時における設定になりますので、今後リスクアセスメントを行い、最終的な検討を行うと派遣社員が集まらず、再調達が困難となるケースもありえます。もともと社内の『ヒト』資源ではないことを認識して評価することが重要となります。
これらのケースを踏まえて判断基準と現状を照らし合わせて評価することで総合的な判断を行うことが望ましいと思われます。次は『モノ』資源について考察したいと思います。
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