BCP策定時についつい見落としてしまう項目、論点について33~重要業務の継続に必要な要素・資源と再調達困難度~
静岡県BCPモデルプラン【様式5】重要業務の継続に必要な要素・資源と再調達困難度では業務の流れ(フロー 工程)で使用される経営資源について確認を行い、その経営資源が事業継続に与える影響と再調達の難しさについて検証を行います。ここで検証を行う『事業継続への影響度合い』についてどのように解釈して使用すればよいかを考察しましょう。今回も『再調達困難度』について考察していきたいと思います。
『再調達困難度』
今回も経営資源の『再調達困難度』について考察したいと思います。
前回、『ヒト』『モノ』『カネ』『情報』『外部資源』となる取引先や関係先、地域社会などについて共通する判断基準を考えてみました。
今回は『外部資源』について『事業継続への影響度合い』での結果から『再調達困難度』を考察したいと思います。
ブログ22~26では『外部資源』の『再調達困難度』として下記の点をそれぞれ考察しました。
『外部資源』
外部資源について解説しますと、自社以外の利害関係者として以下の関係先が挙げられます。
・市場、顧客、製造・サービス提供先
・仕入れ先(原材料・事業・業務に必要な資機材等)
・保守・メンテナンス(事業環境・業務用設備・機器等、産廃事業者)
・支援事業者(士業・支援機関等)
・金融機関(銀行・保険代理店等)
・行政(国・自治体)
・地域社会(住民、マスコミ)
・インフラ事業者
これらの『事業継続への影響度合い』の『再調達困難度』を考察すると、以下のようになります。
市場、顧客、製造・サービス提供先
・売上や利益を得るために必要な取引先。需要と供給の関係として信頼関係の構築が重要
ここでは売り上げや利益を得るための取引先や市場を再調達することがどの程度可能かを判断します。
一度失った取引や売上の減少を取り戻すことは難しいことは言うまでもありません。特定の取引先だけで売上の8~9割を占めるような会社であれば、会社の命運をその特定の取引先が握っているようなものですから、その取引先の代わりに売り上げや利益を確保できる取引先を見つけるのは非常に困難だと言わざるを得ません。
仕入れ先(原材料・事業・業務に必要な資機材等)
・調達に対する信頼性や価格…供給スピード、品質維持・向上、価格の適正化
・南海トラフ地震などの大規模災害の場合、『早い者勝ち』
・希少性の高い原材料等を使用していないか
・供給ルートの確実性
仕入先に関する『重要業務への影響度合い』としての判断基準
①これまでの取引実績
②供給の確実性
③価格的優位性
④原材料やサービスの希少性
⑤対応スピード
⑥供給品・サービスの品質
仕入先としての判断基準は上記のようなこととなりますが、これらの基準を満たす仕入先の代替先を確保することも難しいと思われます。また希少性の高い原材料等を使用している場合は特に注意すべきです。仕入れ先の経営状況や供給体制などから再調達する代替先を早めに見つけなければ、再調達困難度は大きいと考えられます。
保守・メンテナンス(事業環境・業務用設備・機器等、産廃事業者)
・事業を行うには使用する施設や建物・設備、機械器具や什器備品、通信環境といった事業環境が必要
・保守・メンテナンス会社は事業環境を守り、円滑に業務が行うために必要な存在
①これまでの取引実績
②対応の確実性
③サービスの希少性
⑤対応スピード
・物理的距離…機械設備の保守・メンテナンス会社が遠方にある場合、すぐに来ることができない
⑥サービスの品質
保守・メンテナンス業者に求めることとしてはやはり対応のスピードになると思われます。そのためにも物理的な距離というのは代替業者を検討するにしても重要なポイントと考えられます。近隣に重要資源である機械類等の保守・メンテナンスがない場合、再調達困難度は大きいと考えられます。
・支援事業者(士業・支援機関等)
・金融機関(銀行・保険代理店等)…
・支援事業者や金融機関は、社内の業務の一部を担っていることもあり、特に総務・経理・人事といったところが関係する業務が多くみられ、急に取引先を変更するといったことができない存在
・支援事業者や金融機関はまさに事業環境を守り、円滑に業務が行うために必要な存在
①これまでの取引実績
②対応の確実性…BCPの策定を行い、防災・減災活動にも取り組んでいる
③サービスの特異性…サービスの特異性により代替が難しい
⑤対応スピード
⑥サービスの品質
金融機関の場合は、再調達が困難になるといった懸念はほとんどないと考えられますが事業規模が個人、複数人で行っている士業等の支援事業者は組織の脆弱性から継続的な取引が突然終了することもあり、常に代替先を検討しておく必要があります。ただ、同じ士業であれば業務内容に大きな違いもなくバトンタッチできることから多少の問題はあれど、再調達困難度は低いと考えられます。
・行政(国・自治体)
・行政からの許可、免許、認証、資格などを付与
・行政の仕事を委託で行っている企業であれば認可等が必要
・建設業者としての認可や公共工事の入札で入札資格など
①行政との関わり
②許認可、免許・資格、委託事業等の有無
③許認可、免許・資格、委託事業等の取り消しによる影響
行政からの許認可や免許等については認可を失っても再度取得することができるものもありますが、その許認可等を喪失する期間が決められたりすることから、再調達することが一定期間全くできないという事態になります。このことから期間限定で考えた場合、再調達困難度が最も難しいのが許認可等の取得になります。
・地域社会(住民、マスコミ)
・企業のブランドイメージが低下、取引先への影響
・地域社会(住民・マスコミ)が与える影響
①事業活動への理解
②地域社会への貢献
③地域社会とのかかわり・関係性
④事業活動(製品・サービス)が風評被害などに影響されやすいか
⑤コーポレートイメージやブランドイメージが及ぼす社会的影響及び取引先への影響
地域社会の信頼やブランドイメージは一度失うと回復までに相当な時間がかかります。ブランドイメージの再調達は会社名やブランドの改名、時には経営陣の退陣による組織改編に伴う新たな再スタートを行うことにもなりかねないため、会社にとって相当のダメージが発生します。地域社会を代替することはできませんので、企業イメージやブランドを再調達することは非常に困難だと考えられます。
・インフラ事業者
・インフラの復旧自体が事業活動の生命線
①事業活動に関係するインフラの重要度
②長期の供給停止による影響
インフラを事前対策等で一時的に代替することは可能ですが、継続的な代替は難しいことが予想されます。インフラの再調達として代替を検討する場合、事業を行う上で必要な最低限の代替インフラを確保することができるかによって再調達困難度を考えることとなります。言わば、その代替機能にどれだけ事前対策として予算を投じることができるかということで再調達困難度を検討することになります。
いかがでしょうか。再調達困難度をそれぞれの経営資源毎に考察してきましたが、資源毎に検討するための判断基準が大きく違うことがお分かりになられたと思います。これまでの考察を参考にしていただき、お取り組みいただければと存じます。
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